運送業(トラック事業)を始めるにあたり、社会保険に加入する必要があります。しかし、あらためて「社会保険」と言われても、
- そもそもどんな保険が該当するのか
- 従業員全員が加入しないといけないのか
- 手続きはどうしないといけないのか
- 加入しないと違法になるのか
など様々な疑問があるかと思います。
社会保険とは
社会保険とは病気や失業、高齢、介護、労働災害などのリスクに備えて社員(一定の条件を満たした非正規社員含む)の生活を保障する公的な保険制度です。
「健康保険」「介護保険」「厚生年金保険」「労災保険」「雇用保険」などの種類がありますが、狭義では「健康保険」「介護保険」「厚生年金保険」の3つをまとめて社会保険と呼びます(「労災保険」「雇用保険」は労働保険と呼ばれます)。
狭義の社会保険の加入条件
社会保険の加入が義務付けられる事業を「強制適用事業所」と呼びます。強制適用事業所と識別される条件は、
- 5人以上を雇用している個人事業主の運送業者
- 法人の運送業者
となっています。法人の場合は無条件で加入、個人事業主の場合は従業員を5人以上(パートやアルバイトを含む)を雇用している場合は加入義務があります。
ただし、法人・個人事業主関係なく、日雇いや雇用契約が2ヶ月未満の従業員は加入の対象にはなりません。言い換えると常時選任運転者に該当しない人材が社会保険の加入義務がない人物である可能性が高いと言えます。
労災保険の加入義務
多くの事業者が加入しなければならない保険には『労災保険』もあります。こちらは正社員が一人でもいれば、その社員に対して労災保険に加入しておく必要があります。
狭義の社会保険とは異なり、従業員の雇用形態による対象外はありません。正社員、パート、アルバイト、どの雇用形態であっても「週20時間以上の労働、かつ1ヶ月以上の雇用(または雇用が見込める者)」であれば加入義務があります。
社会保険の加入方法
トラック事業者が社会保険に加入するためには、以下のような手続きを行います。
1. 健康保険・厚生年金保険
事業所の所在地を管轄する「年金事務所」(旧:社会保険事務所)で手続きを行います。手続きには、以下の書類が必要です。
- 健康保険・厚生年金保険新規適用届
- 被保険者資格取得届
2. 労働保険(労災保険・雇用保険)
事業所の所在地を管轄する「労働基準監督署」と「公共職業安定所(ハローワーク)」で手続きを行います。手続きには、以下の書類が必要です。
- 労働保険成立届(労働基準監督署)
- 雇用保険適用事業所設置届(ハローワーク)
- 雇用保険被保険者資格取得届(ハローワーク)
手続きの流れ
- 年金事務所で健康保険・厚生年金保険の新規適用手続きを行います。
- 労働基準監督署で労災保険の手続きを行います。
- ハローワークで雇用保険の手続きを行います。
事前に準備しておくと良い書類
- 法人登記簿謄本(法人の場合)
- 会社定款
- 労働者名簿
- 賃金台帳
具体的な手続き方法や必要書類は、事業所の所在地や状況によって異なる場合がありますので、事前に管轄の年金事務所や労働基準監督署、ハローワークに確認すると良いでしょう。
社会保険未加入の罰則・デメリット
トラック事業者が社会保険に加入しなかった場合、以下のような罰則やデメリットがあります。
1. 罰則
- 罰金・過料:健康保険および厚生年金保険の加入が義務付けられている事業所が未加入である場合、事業主は法令違反とみなされ、罰金や過料が科されることがあります。
- 過去分の保険料支払い義務:未加入期間に遡って保険料の支払いを求められることがあり、これに対する追徴金も発生します。
- 行政指導:監督官庁(例えば、厚生労働省や年金事務所)から指導や是正勧告を受けることがあります。
例えば、健康保険法や厚生年金保険法に基づく罰則では、違反した場合には6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることがあります。また、未加入期間の保険料は過去2年間に遡り追徴金として請求される可能性がありますので、想像以上の支払い金額になる可能性も十分考えられます。
さらに、行政指導により業務自体も通常通り行えないわけですから、売上低迷からの給与未払いや関係会社への支払い遅延など、マイナスの連鎖が起こることも考えられます。
2. デメリット
- 従業員の不満・離職・求人の難航:社会保険に未加入のため、従業員の福利厚生が不十分となり、不満が募りやすく、離職率が高まる可能性があります。従業員からすれば、仕事中のケガや病気の際に補償がないわけですから、社会保険加入を行っている会社に優先的に就職することは間違いないでしょう。
- 信用の低下:社会保険に加入していないことが外部に知られると、取引先や顧客からの信用が低下することがあります。
まとめ
この記事では、トラック事業者が加入すべき健康保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険など、社会保険について解説しました。
社会保険はほとんどの従業員が対象(加入条件を満たしていると考えられるため)となり、適切に手続きを行う必要があります。
手続きは年金事務所、労働基準監督署、ハローワークで行い、未加入の場合は罰金や過去分の保険料支払いなどの法的リスクが伴います。適切な社会保険の加入は法令遵守と従業員の福利厚生確保のために不可欠であり、最終的には自社を守ることにも繋がりますので、条件を満たしている場合は必ず加入しておきましょう。
金銭的な理由から加入を検討したい場合は自分だけで判断するのではなく、社会保険労務士に相談してみましょう。
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