自動車運送業の営業権・譲渡譲受

貸切バス事業(一般貸切旅客自動車運送事業)の営業権譲渡について行政書士が解説

貸切バス(一般貸切旅客自動車運送事業)の営業権譲渡

貸切バス事業(一般貸切旅客自動車運送事業)の経営は季節や時期、さらに社会情勢によって影響を受け、経営に苦しむ事業者も珍しくありません。営業権を譲渡することで傾きかけていた経営を立直せないかとお悩みの方も多いです。

しかし、営業権の譲渡に関しては専門的な知識もある程度必要になってくるため「何をすればいいかわからない」と感じてしまうものです。

そこで、今回は貸切バス事業者向けに『営業権とは?営業権譲渡とは?一体どういったものなのか』その特徴とメリット、デメリットについてご紹介していきたいと思います。

筌場 勇成
この記事の監修者
筌場 勇成

2017年2月 行政書士試験に合格。2017年10月 特定行政書士研修を修了し考査に合格。運送業者を中心に関与する。

貸切バスの営業権譲渡とは?

貸切バス事業における営業権譲渡とは運送業許可の譲渡譲受のことを言います。簡単にいえば、貸切バス事業の権利を他人または他社に譲るというものです。

たとえば、貸切バス事業以外にも複数の事業を経営しており、売上が伸び悩んでいる貸切バス事業を他社に譲ることで会社の基盤を立て直すという目的で行われることもあります。

営業権の譲渡方法は事業譲渡(事業売却)と株式譲渡(会社譲渡)の2種類ある

貸切バスの営業権譲渡には事業譲渡株式譲渡の2種類の方法があります。

事業譲渡とは?

事業譲渡とは事業の一部を他社へ譲渡する方法です。複数の事業の内、コアとなる事業に集中したいときなど、他のサブ事業を他社へ譲渡することができます。

特に不採算事業がある場合は事業譲渡することによって、会社経営を立て直すことができる可能性があります。

事業譲渡のメリット・デメリット

【メリット】

  • 譲渡する事業を選ぶことができる
  • 不採算事業のみの譲渡も可能

【デメリット】

  • 貸切バス事業の許可は継承できない
  • 貸切バス事業を譲渡された会社は許可を取り直さなければならない

事業譲渡の最大のメリットは譲渡する事業を取捨選択できるというところにあります。コア事業は残しておきたいが、サブ事業は譲渡してしまいたいという場合に事業譲渡を行うことができます。

ただし、貸切バス事業における事業譲渡にはデメリットがあります。

貸切バス事業においては、事業譲渡を行ったとしても「貸切バス事業の許可」を継承できないのです。つまり、貸切バス事業を欲しがる会社に事業を売却したとしても、「貸切バス事業の許可」は継承されないため、事業を譲り受けた会社は新たに許認可を取らなければならないのです。

株式譲渡とは?

株式譲渡とは株式の保有者を変える方法です。つまり、会社の株式を譲渡することにより、すべての経営権を譲渡することになります。

株式譲渡のメリット・デメリット

【メリット】

  • 貸切バス事業の許可も譲渡される
  • 株式を譲渡された者は新たに貸切バス事業許可を取る必要はない

【デメリット】

  • 会社自体の経営権を失う
  • 契約条件によっては譲渡後の経営に携わることができない

複数の事業を行っている場合は譲渡する事業を選ぶことができず、すべての経営権利を譲らなければなりません。ただし、株式の保有者を変えるだけなので、簡単な手続きで営業権の譲渡が行えます。

さらに、事業譲渡とは異なり、「貸切バス事業の許可」についてもそのまま譲渡されるため、新たに営業権を獲得した会社はすぐに貸切バス事業を行うことができます。

しかし、株式譲渡の場合はすべての経営権を失ってしまいます。つまり、自身の会社を手放してしまうということです。

もちろん、買い手との交渉により事業の一員としてそのまま働くことができる可能性もあります。ただし、契約時の条件によっては一切事業運営に携われないことも珍しくありません。

事業譲渡と株式譲渡はどちらが得?

事業譲渡と株式譲渡のどちらが得かについては会社の経営状況や経営方針によって異なります

たとえば、貸切バス事業のみを手放し、他の事業に集中して業績を伸ばしていくという経営方針があれば、事業譲渡をおすすめします。また、貸切バス事業が不採算事業となっており、手放したいという気持ちがあれば事業譲渡の方法を取るほうが良いでしょう。

一方、すべての経営権を他社に任して会社の再建を目指したいというのであれば株式譲渡をおすすめします。契約条件によっては経営母体が変わったとしても、引き続き、貸切バス事業に携わることができる可能性があります。つまり、経営者が変わってしまうが、継続して貸切バス事業に携わりたいという気持ちがあれば、契約時の条件として買い手と交渉することができます。

貸切バスの営業権譲渡の流れ

貸切バス事業の営業権を譲渡するには事業譲渡と株式譲渡の2種類ありますが、どちらの方法にしても基本的な流れは同じです

手順1.仲介業者に相談

事業譲渡や株式譲渡は専門的な知識が必要になり、当事者同士で契約を行うことはリスクが高いです。そのため、専門家に依頼して仲介してもらうことをおすすめします。

手順2.譲渡先の選定

すでに譲渡したい相手が決まっている場合でも詳細に経営状況や条件を調査することが大切です。せっかく譲渡したにも関わらず、契約時の条件を守ってくれないというトラブルも起こりえます。

そのため、複数の企業から譲渡先を選ぶことがポイントです。また、譲渡先については仲介業者から紹介してもらうことが可能です。

手順3.基本合意書の締結

譲渡先が決まったら、基本合意書を締結します。基本合意書には譲渡に関する条件や売買金額、そして今後の流れなどが記載されています。双方が納得した形で譲渡が進められるように基本合意書に問題ないかを確認した上で契約を交わします。

手順4.企業調査の実施

企業調査とは譲渡先企業の財務状況や事業内容さらに訴訟状況などを調査することを言います。貸切バス事業の営業権譲渡においてはリーガルデューデリジェンスという法務調査を行うことがポイントです。法務調査では過去の違反歴や訴訟履歴、現在の訴訟状況などを調査します。

手順5.最終合意

企業調査の結果に問題なく、営業権の譲渡を行うことに決定すれば最終合意となります。基本合意書より条件や売却価格などに変更がある場合でも最終合意時に双方が納得していれば問題ありません。

貸切バス事業の営業権譲渡の事例

貸切バス事業の営業権譲渡には有名な事例がいくつか存在します。

キラキラ号の事例

東京都に本社をおいていた株式会社旅バスは「キラキラ号」という名称で貸切バス事業を営んでいました。しかし、売上が伸びず、経営状況の悪化から破産直前まで追い込まれていました。

そこで、旅バスが所有している車両と事業のすべてを株式譲渡という形で福島県の桜交通へ営業権が譲渡されました。株式会社旅バスの社員も桜交通へ移り、継続して「キラキラ号」の運営に携わっています。

そして、現在も関東、信越、中部、関西圏で事業を続けています。

東日本交通株式会社の事例

岩手県に本社を置く東日本交通株式会社は岩手県および栃木県で貸切バス事業を営んでいました。しかし、経営陣の高齢化を理由に東京の株式会社みちのりホールディングスに全株式を譲渡する方法で営業権を譲渡しました。

そして、株式会社みちのりホールディングスへの譲渡後も引き続き、バス事業を続けており、もともと使用されていた車両も継続して運行に使われています。

まとめ

貸切バス事業の営業権を譲渡を検討される事業者は少なく有りません。特に観光業の低迷により事業運営がままならない事業者が増えてきています。

そこで、貸切バス事業の営業権を他社に譲渡することで経営を立て直す方法があります。貸切バス事業が不採算事業となっている場合は事業譲渡を行うことで、コア事業に集中することができ、経営状況の改善を目指すことができます。

また、株式譲渡を行うことですべての営業権を譲渡するという方法もあります。会社の経営方針や経営状況から最適な譲渡方法を選び、今後の業績に繋ぐことが大切です。

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