平成29年より貸切バス(一般貸切旅客自動車運送事業)の事業更新が導入され、更新を行わなければ事業を続けられなくなりました。しかし、申請には複雑な書類を用意したり、適切な収支計画を立てたりする必要があります。さらに、法令試験を受ける必要もあり、難易度の高い更新制度となっています。
本記事では貸切バスの事業更新制度の概要と必要書類、申請手順について解説していきます。
2017年2月 行政書士試験に合格。2017年10月 特定行政書士研修を修了し考査に合格。運送業者を中心に関与する。
貸切バスの事業許可更新制度とは?
貸切バス事業許可の更新制は平成29年4月1日より開始されました。この制度が導入された背景には主に4つの目的があります。
- 事業者の安全対策を徹底するため
- 運転者への安全教育など、事業者が守るべきルールを徹底するため
- 重大な事故の再発防止
- 不適格者の排除
つまり、安全対策をしっかり行い、基準に満たない事業者は貸切バス事業許可を更新することができないというものです。
この貸切バス事業許可の更新制が導入されたきっかけとなったのは平成28年1月に長野県軽井沢で起こったスキーバス事故です。バスがカーブを曲がり切れずに横転し、ガードレールを突き破って転落した悲惨な事故でした。この事故で多くの死傷者が出たことから貸切バスの運行状況、運転者への安全教育、さらに事業者の安全対策について再確認されるようになりました。
更新時期について
貸切バス事業許可が更新されると更新日から5年間有効となります。更新手続きを行うには有効期間満了日の2~4ヶ月前までに管轄の運輸支局で更新許可申請を行わなければなりません。
また、更新を忘れてしまうと事業許可が失効となってしまい、事業を続けることができないため、注意が必要です。
有効期間満了日 | 申請時期 |
---|---|
4月1日から6月30日まで | 同年2月中 |
7月1日から9月30日まで | 同年5月中 |
10月1日から12月31日まで | 同年8月中 |
1月1日から3月31日まで | 前年11月中 |
事業許可更新の有効期限は更新日から5年間有効ですが、更新申請を行う時期については上表のように定められています。有効期限内だからといって2週間前や1週間前に申請を行うことはできません。
許可更新の合格基準は?
貸切バス事業許可更新に合格するためには、下記の基準を満たす必要があります。
- 安全投資計画および事業収支見積書を提出できる
- 財務状況が赤字ではない
- 法令試験に合格している
- 行政処分を受けていない
安全投資計画および事業収支見積書を提出できる
「適切な収支計画」を提出できるかがポイントとなります。単に安全投資計画書や事業収支見積書を提出すれば良いわけではありません。安全対策に必要な投資を行っても収支にマイナスがないことが重要です。
たとえば、所有しているバスに安全装置を付けたり、社員教育を行ったりしたことで、赤字になった場合は更新が認められないため注意が必要です。あくまでも、安全投資を行っても黒字であることがポイントとなります。
財務状況が赤字ではない
申請直近の1事業年度において事業者の財務状況が赤字でないことが条件になっています。さらに、直近の3事業年度が連続してすべて赤字だった場合は更新できません。
赤字の貸切バス事業者が事業更新を行う方法・対策については、下記のページにまとめていますので、財務状況に赤字がある事業者は一度ご覧ください。
法令試験に合格している
事業者の代表者が貸切バス法令試験に合格しなければなりません。代表者として認められる者は下記のとおりです。
代表取締役
役員が一人しかいない場合は取締役
役員が複数いる場合は代表取締役
代表社員
(代表社員が複数いる場合は代表して1人が試験を受ければ問題ありません。)
個人事業主本人
法令試験の出題範囲は道路運送法や旅客自動車運送事業運輸規則などの貸切バス事業を運営する上で必要な知識とルールから出題されます。
また、「一般旅客自動車運送事業の遂行に必要な法令」のガイドラインからも出題されるため、出題範囲が広くて覚えることが多いのが特徴です。
法令試験の合格基準は正解率90%以上。試験自体の合格難易度が高いのも特徴です。
行政処分を受けていない
前回の許可を受けてから「毎年連続して」行政処分を受けた場合は更新することができません。運輸局の監査が毎年入り、なんらかの行政処分を毎年受けた場合は無条件で更新することができないため、注意が必要です。
また、行政処分や貸切バス事業だけではなくタクシーやトラックなど貸切バス以外に兼業している事業において受けたものも対象となります。
さらに、2回目以降の許可更新では1回目の許可更新から2回目の許可更新までの間に行政処分を受けている場合、運輸安全マネジメント評価を受けなければ更新許可がおりません。
許可更新の手続き手順
許可更新を受けるには管轄する運輸支局にて申請手続きを行う必要があります。
手順1.書類の準備
まず、申請に必要な書類の準備から始めましょう。用意する書類は下記の3つです。
- 一般貸切旅客自動車運送事業の更新許可申請書
- 安全投資計画書
- 事業収支見積書
更新許可申請書
更新許可申請書は事業者情報を記載する申請書です。具体的には下記の内容を記載します。
- 営業区域
- 事業者の名称と住所
- バスの種別および台数
- 任意保険の賠償額
- 収容能力(車庫の大きさなど)
申請用紙については管轄の運輸局のホームページや窓口から入手することができます。下記に各リンクをまとめていますので、ホームページからダウンロードする場合にご利用ください。
安全投資計画書
業務を遂行する上で安全を確保するために必要な投資の計画を記載します。
項目 | 記載内容 |
---|---|
計画期間 | 許可を受けようとする日から期間満了日までを記載します。 |
更新までの期間における事業の展望 | 経営方針を記載します。 |
更新までの期間に実施する事業及び安全投資の概要 | 年度ごとにどのような事業を実施するのかを記載します。そこで増車予定や安全対策装置の設置などを行う場合は併せて記載します。 |
運転者、運行管理者、整備管理者の確保予定人数 | 年度末の合計人数を記載します。 |
車両取得予定台数及び保有車両台数 | 年度末の合計台数を記載します。 |
ドライブレコーダーの導入計画 | 年度末の合計台数を記載します。 |
適性診断の受診計画 | 適性診断の対象者人数を記載します。 |
高齢運転者雇用計画 | 高齢者適性診断の対象者人数を記載します。 |
貸切バス事業者安全性評価認定申請計画 | 貸切バス事業者安全性評価認定申請を行う場合は記載します。 |
運輸安全マネジメント評価受診計画 | 運輸安全マネジメント評価を受診する場合は記載します。 |
その他安全の確保に対する投資計画 | 年度ごとに安全確保に関する投資計画がある場合は記載します。ドライブレコーダーの導入や自動衝突回避システムの導入、さらに外部での運転講習の実施などについても計画段階であっても記載しなければなりません。 |
以上の11項目の記載が求められます。
詳しい記載例は国土交通省によって公表されていますので、そちらを確認すれば問題なく書類作成を進めることができます。
事業収支見積書
事業収支見積書では今後6年間の事業計画を記載する必要があります。許可更新を受けるには「適切な収支計画」が必要となります。そのため、安全投資計画と照らし合わせながら作成していくことが好ましいです。
項目 | 記載内容 |
---|---|
計画期間 | 許可を受けようとする日から期間満了日までを記載します。 |
一般貸切旅客自動車運送事業に係る事業収支見積り | 運送収入や運送雑収を記載します。ここでは別紙で算出した営業利益を基に記載していくことがポイントです。さらに、従業員の給与や諸手当、福利厚生費などについても詳細に記載する必要があります。 |
手順2.法令試験の受験
代表者が法令試験を受験し、合格しなければなりません。正答率90%以上が合格基準となっており、出題範囲も広いため、入念な対策が必要となります。
過去問は全て各運輸局のホームページで公表されています。上手く活用して「どのようなこと勉強しておけばいいのか」把握しておきましょう。
概要や試験内容などの詳細は当サイトでも解説していますので、あわせてご覧ください。
貸切バスの事業更新で行われる法令試験について、概要や試験内容、効率的な勉強法を解説
手順3.申請書の提出
申請に必要な書類を準備し、法令試験に合格できたら、管轄の運輸支局に申請書を提出します。提出後は運輸支局によって書類の確認および運営状況の精査が行われ、更新できるかどうかが判断されます。
まとめ
平成29年より始まった貸切バスの事業更新制度は様々な種類の書類を用意し、難易度の高い法令試験を受けなければなりません。申請書の中には専門用語が出てきたり、わかりづらい表現もあったりします。
しかし、許可更新を行わなければ事業を続けることができなくなるため、更新期限を守り、入念な準備を行ってから申請手続きを行うようにしましょう。
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