一般貸切旅客自動車運送事業(貸切バス事業)の始め方【行政書士監修】

一般貸切旅客自動車運送事業(貸切バス事業)の始め方【行政書士監修】 貸切バスの新規許可申請

一般貸切旅客自動車運送事業(貸切バス事業)を始めるには国から許可を受けなければなりません。

しかし、必要書類が複雑だったり、法令試験の受験が必須であったりと、わかりにくいことも多いのが現状です。

そこで、本記事ではこれから貸切バス事業を始める方向けにわかりやすく事業の始め方を解説していきます。

筌場 勇成
この記事の監修者
筌場 勇成

2017年2月 行政書士試験に合格。2017年10月 特定行政書士研修を修了し考査に合格。運送業者を中心に関与する。

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一般貸切旅客自動車運送事業とは

一般貸切旅客自動車運送事業とは通称、貸切バス事業と言われており、乗車店員が11名以上の自動車を使用して旅客を運送する事業のことです。

たとえば、旅行会社と運送契約を結び、バスを貸し切ってツアーの団体客を目的地まで運ぶなどが例として挙げられます。

特定旅客自動車運送事業との違い

一般貸切旅客自動車運送事業と似ているものに特定旅客自動車運送事業があります。特定旅客自動車運送事業の場合、限られた範囲の旅客を運送することのみを事業としています。

たとえば、送迎バスのように特定の利用者を特定の理由で運送することを目的としています。

一般貸切旅客自動車運送事業 バスを貸し切って団体を運送する事業
(例)旅行会社のツアー団体、修学旅行など
特定旅客自動車運送事業 特定の範囲の旅客を特定の目的で運送する事業
(例)送迎バス、介護輸送など
※旅客は○○に限る。というようにあらかじめ定めなければなりません。

一般乗用旅客自動車運送事業との違い

一般乗用旅客自動車運送事業とは乗車定員が10名以下の自動車を使用して運送する事業のことを言います。たとえば、タクシーハイヤーなどが一般乗用旅客自動車運送事業に当てはまります。

基本的な認識としては一般貸切自動車運送事業と同じですが、乗車定員の違いで区分されています。

一般貸切旅客自動車運送事業 乗車定員11名以上の自動車を使用して運送する事業
(例)貸切バスなど
一般乗用旅客自動車運送事業 乗車定員10名以下の自動車を使用して運送する事業
(例)タクシー、ハイヤーなど

スクールバスは含まれる?

幼稚園や保育園、学校などのスクールバスの場合、利用者と目的地が特定されているため、審査基準が低い特定旅客自動車運送事業の許可を取っていれば問題ありません。

しかし、一般貸切旅客自動車運送事業の許可を受けている場合、幼稚園や学校などと団体契約を結ぶことでスクールバスの運行を事業として行っても問題ないとされています。

貸切バス事業許可までの流れ

貸切バス事業許可を受けるには所定の手続きを行わなければなりません。

まずは確認!手続き一覧

貸切バス事業許可を受けるためにどのような手続きが必要かあらかじめ確認しておくことをおすすめします。

手順1. 審査基準の確認
手順2. 必要書類の準備
手順3. 経営許可申請書の作成
手順4. 経営許可申請書を運輸局へ提出
手順5. 法令試験を受験
手順6. 書類審査
手順7. 許可
手順8. 事業開始までに行うこと

手順1.審査基準を満たすための準備を行う

貸切バス事業許可を受けるためには12の基準を満たしていなければなりません。

  1. 営業区域
  2. 営業所
  3. 事業用自動車
  4. 最低車両数
  5. 自動車車庫
  6. 休憩、仮眠又は睡眠のための施設
  7. 管理運営体制
  8. 運転者
  9. 資金計画
  10. 法令遵守
  11. 損害賠償能力
  12. 許可等に付す条件等

1.営業区域

貸切バス事業における営業区域は営業所のある都道府県単位となります。たとえば、営業所が名古屋市にある場合は愛知県が営業区域となります。

ただし、都道府県が隣接する市町村に営業所がある場合は山岳や河川などの地理的要因に隔たりがなく、同一地域として認められる場合に限り、隣接する市町村を営業区域とすることができます。

同一地域として認められるには地理的要因の他に経済事情なども考慮されます。たとえば、隣接している市町村の方が人口規模や経済規模が大きい場合などについては、同一地域として認められる傾向にあります。

2.営業所

営業区域内に営業所を設置しなければなりません。また、複数の営業区域を持つためには各地域に営業所を置く必要があります。

ただし、営業所として使用している土地や建物の使用権限が3年以上あることが条件です。

たとえば、賃貸借契約によって契約期間が1年の有期契約となっている場合は条件に満たさないため、許可を取ることができません。

しかし、賃貸借契約の期間が3年未満であっても、契約の更新が自動的に行われる場合に限り、審査基準に満たしていると判断されます。

3.事業用自動車

貸切バス事業では定員11名以上の自動車を使用しなければなりません。さらに、大型車、中型車、小型車の3つの区分に分けられています。

大型車 車両の長さ9m以上又は旅客席数50人以上
中型車 大型車、小型車以外のもの
小型車 車両の長さ7m以下で、かつ旅客席数29人以下

車両については申請者に使用権限があることが条件となっており、購入に係る請求書や納品書などの提出が必要となります。

また、リース車両を使用する場合はリース契約の期間が1年以上あることを証明しなければなりません。

4.最低車両数

営業区域ごとに最低3台以上の車両が必要となります。ただし、大型車を使用する場合は最低5台以上の車両が必要となります。

また、車両数を3台以上5台未満で申請する場合は小型車および中型車を使用しての運送という限定条件が付けられます。

5.自動車車庫

自動車車庫については8つの項目を満たす必要があります。

①自動車車庫は営業所に併設されていること
※営業所に併設できない場合は運行管理を十分に行える位置であり、営業所から直線距離で2km以内に車庫を設置しなければなりません。

②車両と自動車車庫の境界までの距離、さらに車両同士の間隔が50cm以上確保されていること
自動車車庫および車両ごとの間隔が50cm以上確保されていることが条件です。

③事業用自動車をすべて収容できること
保有する事業用自動車をすべて収容できるスペースが必要です。

④他の用途に使用される部分と明確に分けられていること
自動車車庫内に事務所機能をおいたり、他の用途に使用したりすることはできません。

⑤自動車車庫がある土地や建物の使用権限が3年以上あること
(賃貸の場合は貸借契約期間が3年以上あること)
※賃貸借契約が3年未満の場合でも契約期間が自動更新される場合であれば使用権限があると認められます。

⑥建築基準法、都市計画法、消防法、農地法等関係法令の規定に抵触しないものであり、その旨の宣誓書の提出があること
特に古い車庫の場合は建築基準法や消防法の確認が必要です。

⑦事業用自動車の点検、整備(自動車点検基準(昭和26年運輸省令第70号)第6条に規定する調整)及び清掃のための施設が設けられていること
点検および整備、洗車を行うためのスペースが設けられていることが条件となります。

⑧車両の出入りに支障のない構造であり、前面道路が車両制限令に抵触しないものであること
構造的に車両の出入りが困難とみなされる場合は審査基準に満たないため注意が必要です。

6.休憩、仮眠又は睡眠のための施設

休憩および仮眠スペースについては、営業所または自動車車庫に併設する必要があります。ただし、併設出来ない場合は営業所および自動車車庫から直線で2km以内にスペースを設けなければなりません。

また、賃貸か自己所有かによって提出しなければならない書類が異なったり、備品の準備をしたりなど、時間がかかる項目になります。余裕を持って準備、書類作成を進めていきましょう。

7.管理運営体制

事業者が法人の場合は役員の内1名以上が貸切バス事業の専従になる必要があります。

また、安全管理規定を定めて安全統括管理者を専任する計画があり、安全統括管理者として就任することを証明できる書類を提出しなければなりません。

その他、事故防止について教育および責任体制についての規定などが明確に整備されている必要があります。

8.運転者

事業計画に必要な人数を確保しなければなりません。また、有資格の運転者を常時雇用して運転者の資格を証明するための運転免許証の写しを提出する必要があります。

9.資金計画

所要資金の見積もりが適切であり、資金計画が合理的で確実性がなければなりません。

また、所要資金は次の7つの項目の合計金額とし、それぞれが定められた方法で計算されている必要があります。

車両費 取得価額またはリースの場合は1年分の賃借料
土地費 取得価額または1年分の賃借料、敷金等
建物費 取得価額または1年分の賃借料、敷金等
機械器具及び什器備品 取得価額
運転資金 人件費、燃料油脂費、修繕費等の2ヶ月分
保険料等 保険料および租税公課の1年分
その他 創業費などの開業に要する費用の全額

さらに、所要資金の50%以上であり、事業開始当初に要する資金の100%以上の自己資金が申請日以降常時確保されていなければなりません。

つまり、申請日時点のみに自己資金が確保されているだけでなく、申請日以降も常に資金を持っておかなければならないということです。

10.法令順守

申請者が法人である場合には代表権を持つ常勤の役員の内1名が、一般貸切旅客自動車運送事業を適正に遂行するために必要な法令知識を有していなければなりません。法令順守要件を満たしているかどうかを判断するために、代表者は法令試験に合格する必要があります。

11.損害賠償能力

任意保険または共済に計画車両のすべてが加入する計画であり、契約申込書の写し、見積書の写し、誓約書の提出が必要となります。保険または共済の種類については、平成17年国土交通省告示第503号(平成25年国土交通省告示第1071号改正)で定めている基準に適合するものでなければなりません。

【保険基準】
(対人)
・事業用自動車の運行により生じた旅客その他の者の生命または身体の損害を賠償することによって生ずる損失にあっては、生命または身体の損害を受けた者1人につき8,000万円以上を限度として補することができるもの

(対物)
・事業用自動車の運行により生じた旅客その他の者の財産(当該事業用自動車を除く。)の損害を賠償するにあたっては1事故につき200万円以上を限度額として補することができるもの

(免責)
・旅客自動車運送事業者の法令違反が原因の事故について補償が免責となっていないこと
・財産に対する免責額が30
円以下であること(地方運輸局長が輸送の安全及び旅客の利便を確保する上で支障がないと認める場合を除く。)

(支払い制限)
・保険期間中の保険金支払額に制限がないこと

(契約締結)
・事業用自動車の台数に応じて契約を締結する場合にあっては、すべての事業用自動車の台数分の契約を締結すること

(負担)
・賠償額に対する一定割合の負担額その他の負担額のないものであること

12.許可等に付す条件等

運輸開始までに社会保険等加入義務者が社会保険等に加入していなければなりません。

手順2.必要書類を準備する

申請に必要な書類を準備しましょう。

【必要書類】

  • 経営許可申請書の鑑
  • 事業計画
  • 所要資金および事業開始に要する資金の内訳
  • 車両費、土地費、建物費、機械器具および什器備品費の明細
  • 車両明細一覧表
  • 事業用自動車の使用権限を証する書面
     -自己所有:車検証の写し、支払明細書
     -リース:車検証の写し、リース契約書
     -購入:車検証の写し、売買契約書の写し、分割払いの場合は割賦支払明細書
  • 運転資金、保険料、その他創業費等の明細
  • 残高証明書の原本
  • 休憩睡眠施設の概要を記載した書面
  • 営業所、自動車車庫、休憩睡眠施設の案内図、平面求積図、配置図
  • 営業所、自動車車庫、休憩睡眠施設の使用権限を証する書面
     -自己所有:不動産登記簿謄本
     -賃貸物件:賃貸借契約書の写し
  • 建築基準法、都市計画法、消防法、農地法等関係法令に抵触していない旨の誓約書
  • 車庫前前面道路の道路幅員証明書
  • 定款
  • 履歴事項全部証明書
  • 直近の事業年度貸借対照表
  • 役員名簿
  • 役員の履歴書
  • 申請者、常勤役員の欠格事由に該当しない旨、行政処分を受けていない旨の誓約書
  • 管理運営体制の組織図
  • 安全統括管理者の就任承諾書
  • 運行管理者資格者証
  • 整備管理者の有資格者証または管理者手帳
  • 整備管理者の就任承諾書
  • 運転者予定名簿
  • 運転免許証の写し
  • 運転者の就任承諾書
  • 法令の基準に適合する任意保険や共済に加入する旨の誓約書
  • 健康保険および厚生年金に係る新規適用届出の写し(許可取得後に社会保険へ加入する場合は誓約書)
  • 労災保険、保険関係成立届出の写し(許可取得後に社会保険へ加入する場合は誓約書)
  • 安全投資計画
  • 整備サイクル表
  • 事業収支見積書
  • 健康診断費用の見積書
  • 車両のリース契約書
  • その他安全確保のための投資費用が記載されている見積書
  • 直近1事業年度分の賃借対照表
  • 損益計算表

上記書類は申請に必要な最低限の書類です。審査の内容によっては追加書類を求められる場合があります。申請には莫大な種類の書類を提出しなければならないため、事前に用意できるものについては用意しておくことをおすすめします。

手順3.経営許可申請書を作成する

経営許可申請書については管轄の運輸局のホームページからフォーマットを入手することができます。経営許可申請書は鑑と事業計画の2ページからなっており、鑑には申請者名や住所などの必要事項を記載します。

そして、2ページ目の事業計画には以下の5つの項目を記載していきます。

営業区域 営業する範囲について記載
主たる事務所の名称および位置 事業所の名称と住所を記載
営業所の名称および位置 営業所の名称と住所を記載(自己所有か賃貸かも記載しなければならない場合もあります。)
営業所ごとに配置する事業用自動車の数 複数の営業所がある場合はそれぞれ配置されている台数を記載します。
損害賠償能力 対人賠償および対物賠償の上限金額について記載
(法令で定められた基準を満たしておく必要があります。)
自動車車庫の位置および収容能力 自動車車庫の住所と収容能力(面積で記載)

手順4.経営許可申請書を管轄の運輸局へ提出する

経営許可申請書を作成したら、営業所が置かれているエリアの管轄運輸局に書類一式を提出します。書類に不備等がなく、窓口で申請書が受理されると審査が開始されます。

手順5.法令試験を受験する

許可を受けるには代表者が法令試験を受験しなければなりません。代表者として認められるのは下記のとおりです。

【株式会社の場合】
代表取締役

【有限会社の場合】
役員が一人しかいない場合は取締役
役員が複数いる場合は代表取締役

【LLCの場合】
代表社員
(代表社員が複数いる場合は代表して1人が試験を受ければ問題ありません。)

【個人事業主の場合】
個人事業主本人

法令試験の出題範囲は、旅客自動車運送事業運輸規則などの貸切バス事業を運営する上で必要な知識から出題されます。

さらに、一般的な道路交通法や道路運送法からも出題されるため、出題範囲が広い試験となっています。法令試験の合格基準は90%以上となっており、合格難易度が高いため、試験までにしっかりと学習しておく必要があります。

貸切バスの新規許可の法令試験を解説 | 概要、出題範囲について

手順6.書類審査

法令試験の合格と併せて、管轄の運輸局にて提出した書類に基づいて審査されます。特に一般貸切旅客自動車運送事業は厳しく審査される傾向にありますが、基準を満たしていれば問題なく審査が通るようになっています。

手順7.許可

運輸局での審査が通れば、一般貸切旅客自動車運送事業の許可を受けることができます。管轄の運輸局より一般貸切旅客自動車運送事業の許可書を受領して、次の手続きを行います。

手順8.許可から事業開始までに行うこと

運輸局より許可を受けただけでは事業を開始することはできません。一般貸切旅客自動車運送事業の許可書をもとに行政機関での手続きなど、事業開始までに様々な準備を行わなければなりません。

  • 運輸局、行政機関での手続き
  • 許可証受領
  • 登録免許税の納付
  • 運賃届出
  • 約款の許可申請
  • 安全統括管理者選任届の提出
  • 安全管理規定設定届の提出
  • 運行管理者、整備管理者選任届の提出
  • 事業所内での準備
  • 営業所、自動車車庫の整備
  • 休憩睡眠施設の確保
  • 事業用車両の購入またはリース契約
  • 点呼記録簿の整備
  • 運賃料金、運送約款の刑事
  • 安全管理規定、運行管理規定、整備尾管理規定の整備
  • 就業規則、労使協定の作成
  • 事業用自動車連絡書の取得
  • 事業用ナンバーの取得
  • 運輸開始届の提出
  • 社会保険、労働保険の加入
  • 運転者適性診断および健康診断の受診
  • 任意保険または共済の加入

手順9.運輸開始届を提出する

運輸を開始したら、ただちに管轄の運輸支局に運輸開始届を提出しなければなりません。運輸開始届を提出する際に車検証や任意保険の写し、さらに営業所や自動車車庫、車両の写真の提出を求められる場合があります。

また、運転者の社会保険や労働保険に関する書類についても提出しなければならないこともあるため、必ず用意しておきましょう。

許可を取らずに営業を行った場合の罰則

一般貸切旅客自動車運送事業を無許可で行った場合は3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金が科せられます。さらに、6ヶ月以内の期間を定めて所有している自家用自動車の使用を制限または禁止となることがあります。

場合によっては、事業自体の停止処分になることもあます。無許可での営業は絶対にやめましょう。

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