はじめまして。
一般社団法人健康マネジメント協会 管理栄養士の佐藤恵美子といいます。わたしは事業用自動車のプロドライバーが突然意識を失うこと、または突然死することで事故を起こし多くの命を失うことがないよう様々なお手伝いをしております。
運送業を営む事業者にとって『ドライバーによる事故』は常に懸念すべき事項かと思います。
しかし、食事や睡眠などはプライベートな領域にも近く、事業者からどのように管理すればよいか悩ましい部分も多いはず。
そこで今回は私が管理栄養士として数千人のドライバーへとアドバイスしてきた経験をもとに、事業者ができるドライバーの健康管理と事故防止についてお伝えしていきたいと思います。
健康起因事故防止が事業の安定した継続に繋がる
ほとんどの事故防止研修は運転中に心がけることを学びますが、健康起因事故防止については「運転以外の時間」つまり日常の食事や睡眠などについて意識を変えることが基本となります。
ですので、ドライバーにまずは「健康管理」と「事故防止」がどうしてリンクしているのかを理解して頂く必要があります。
ドライバーが起こす健康起因事故はたとえ被害者が出なかったとしても、体調不良で運転を続行できなかった場合は健康起因事故として重大事故とカウントされます。事業主にとって大変厳しい状況になります。
数千件の健康診断結果からわかったドライバーの食事状況
さて、私はドライバーの健康診断結果を述べ数千件以上は見させて頂きましたが、他の業種に比べてドライバー職は圧倒的に肥満が多いことが特徴です。個人面談でドライバーからの聞き取りによると
- 「いつ休憩がとれるか分からないから、お腹がすいていなくても食べることが出来る時に1食食べておく。食べた時間が中途半端だったため帰宅後も食べる。」
- 「帰宅が腹ペコの深夜なのでドカ食いしてすぐに寝る習慣である。」
- 「運動する時間が全くない。それどころか、とにかく歩くことがほとんどない。」
- 「コンビニや外食がほとんどなのでボリュームが多いものを選びがち。」
などお話してくれます。致し方ない様子も理解できます。
しかし、厚生労働省による脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況によると、請求件数は10年以上「運輸業、郵便業」がワースト1位である結果が出ています。
ご本人のお身体のためにも、もちろん事業主様にとっても仕方ないでは済まされません。
心筋梗塞が36倍?
勘違いして欲しくないのですが、健康起因事故は高齢者だけが起こす事故ではありません。40代50代の働き盛りのドライバーも起こします。
男性型肥満のお腹周りの内臓脂肪がついている方は身体にダメージを負わせるホルモンが出てしまうので総じて血圧、血糖値、脂質異常値が高く、肥満を合わせて「血圧」「血糖値」「脂質異常値」「肥満」4つのうち基準値を超えている項目が3つ以上あると心筋梗塞になるリスクは健康な方に比べて36倍も増えます。
36倍って衝撃的ですよね。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は突然寝てしまうから恐ろしい
また一般的には睡眠時無呼吸症候群(SAS)というと、眠くなって居眠りする事故という認識であるかと思いますが、正確には少し違います。運転していて眠くなることは誰しもあるかと思います、ちなみに私はあります。
眠くなったと感じたら休憩する、ガムを噛む、空気を入れ替える、手をつねるなどの対処が出来ますがこの睡眠時無呼吸症候群(SAS)は「眠くなる」という過程を吹っ飛ばして「突然寝てしまう」のです。
だからご本人も対処のしようがないまま事故を起こすという、とんでもなく恐ろしい病気なのです。睡眠時無呼吸症候群(SAS)のある方による交通事故の発生率は健康な方に比べて約7倍とも言われています。
睡眠時無呼吸症候群も確かにあごが小さいなど骨格の問題の方もいらっしゃいますが首に脂肪が蓄積して酸素が吸い込みづらい方が大多数です。このようなことから肥満予防こそ健康起因事故防止には重要な課題と言えます。
管理栄養士 佐藤が提案する食事方法
世間で言われている健康的な食事方法を提案しても物理的に無理でしたら意味がありません。ドライバー個々のライフスタイルを細かくヒアリングして、それでも出来ることを一緒に探しています。
例えば先ほどの
- 「いつ休憩がとれるか分からないから、お腹がすいていなくても食べることが出来る時に1食食べておく。食べた時間が中途半端だったため帰宅後も食べる。」
→ 腐らないカロリーメイトを持参しておく。無理して1食を食べることはせず、空腹は満たす軽食で次の食事につなげる。
- 「帰宅が腹ペコの深夜なのでドカ食いしてすぐに寝る習慣である。」
→ 17時頃にコンビニでお握りか野菜の入ったサンドウィッチ、たんぱく質多めなサラダチキンパン、バナナのようなものを1個食べておく。自宅に帰った際にすでに摂取した炭水化物を除くさっぱりしたおかずのみ食べるようにすれば胃もたれせず朝には空腹を覚えて朝ごはんを食べる習慣にも繋がる。
- 「運動する時間が全くない。それどころか、とにかく歩くことがほとんどない。」
→ パーキングであえて遠い場所に止めて歩く距離を少しでも稼ぐ程度で充分。自宅で1分だけ時間を取れるならお風呂上りにクランクをすすめる。
- 「コンビニや外食がほとんどなのでボリュームが多いものを選びがち」
→ 外食でも必要カロリーと栄養素のとれるメニューをお伝えする。カツ丼より親子丼、ラーメンより蕎麦。たとえラーメン屋でライス無料だとしてもご機嫌になってライス頼むことは寿命を削ること。どっちがお得?と問う。
コンビニでは「1日の1/3の野菜がとれる」シリーズの丼物を選ぶ。1食のカロリーは500kcal前後に抑えられて栄養バランスも整い500円程度なのでとても便利。
過去に成功した方はたくさんいますが、真似しやすい例だと
- ジュースをお茶か水に変えるだけで4kgの減量に成功して脂質と肝機能が正常値に戻った方。
- 毎食事の前にコンビニの100円カットキャベツをノンオイルドレッシングで食べるだけで16kg減量した方。
- 日本酒やビールを焼酎水割りにして中性脂肪を下げた方。
- つい買ってしまうコンビニのホットスナックをサラダチキンに変えて悪玉コレステロールを減らした方。
- 1日1回はトマトジュースを飲んで血圧下げた方。などたくさんの例があります。
しかし誰一人無茶なダイエットはさせていません。正しい食事に導いただけです。
女性より男性の方が腹落ちすると意志が強い
男性の場合太ったとしても「貫禄がついた」と良い表現で済ませてしまい減量の必要性を感じない人が多いです。
ただ目的意識を理解してやる気スイッチが入ると女性より確実にスルスル痩せます。女性は常にダイエットスイッチは入っていますが行動を持続することが苦手なのです。
減量を決意されたドライバーは
- 健康診断の結果を受け止めご自身の命や事故を起こしたリスクを理解したとき
- 異性への意識がある方(モテタイ、格好よくなりたい、結婚やお付き合いを意識している人がいる)
この2つがほとんどでした。
事業主様が健康起因事故防止のため本気になる!
きっかけを利用してスイッチが入ったときに、事業主様は個人個人の生活状況の中で1個だけ何なら出来るかを一緒に考えてあげて下さい。そして少しでも健康診断結果が改善したときには大げさなくらいに皆の前で賞賛の言葉をかけてあげて下さい。褒められたドライバーはより会社や事業主様のことが大好きになります。
この努力は、事故を起こすリスクを減らしてくれた証です。そして他のドライバーの意識も変わっていきます。
繰り返しになりますが、健康起因事故を予防するには「運転中以外の食事や生活を意識すること」です。事故と食事を結びつけるのに時間はかかるかもしれませんが、結びついた時に必ず成果がでます。
『法律で決まっているから健康診断を受診させている』ではなく、ぜひ健康診断の結果を理解してメンテナンスが必要かどうかを確認する大切な行事にして下さい。いわば車検と一緒です。
健康であることは誰にとっても、幸せの基本です。今ある幸せに感謝して、ずっと元気にお仕事を守り続けるため、まずは事業主様ご自身が最新の健康診断の結果に課題がないか確認してみてはいかがでしょうか?
再検査項目があれば必ず受診されてください。経過観察であれば、食生活を変える必要があります。今食べているもので10年後の身体が決まってくると私は思っています。
男性の減量については誰よりも得意分野ですので、ご不安な際にはいつでもご遠慮なく連絡ください。
一般社団法人健康マネジメント協会/管理栄養士/(旅客)運行管理者・睡眠コンサルタント。管理栄養士取得後、食品メーカー、保健センターに勤務。ドライバーの健康管理、改善について面談や研修を行う。面談を行った企業のうち健康診断結果が1人も改善しなかったことは未だゼロ。国土交通省推奨の個人別の健康管理ノート作成、健康診断結果の分析などを得意とする。