貸切バス事業(一般貸切旅客自動車運送事業)を許可を新規で受けるには事業者の代表者が法令試験に合格しなければなりませんが、その合格率は48.1%~74.5%(※)と決して高くなく、無勉強で簡単に合格できるほど甘くはありません。
そこで本記事では貸切バス事業の新規許可で行われる法令試験について、概要や出題内容を詳しく解説していきたいと思います。
2017年2月 行政書士試験に合格。2017年10月 特定行政書士研修を修了し考査に合格。運送業者を中心に関与する。
法令試験の概要【2021年度】
1.受験者
代表権を持つ常任役員
※個人事業主の場合は申請者本人、合同会社の場合は代表社員
2.試験実施日
原則として毎月1回の実施
3.出題内容
【道路運送法関係】
- 道路運送法
- 道路運送法施行令
- 道路運送法施行規則
- 旅客自動車運送事業運輸規則
- 旅客自動車運送事業等報告規則
- 自動車事故報告規則
- 一般貸切旅客自動車運送事業標準運送約款
【道路運送車両法関係】
- 道路運送車両法
- 道路運送車両法施行令
- 道路運送車両法施行規則
- 道路運送車両の保安基準
【一般旅客自動車運送事業の遂行に必要な法令】
- 運送事業者における安全管理の進め方に関するガイドライン
- 旅客自動車運送事業運輸規則第47条の7第1項の規定に基づき、旅客自動車運送事業者が公表すべき運送の安全に係る事項(国土交通省告示第1089号)
- 自動車運転者の労働時間等の改善のための基準
- 輸送の安全を確保するための貸切バス選定・利用ガイドライン
- その他一般旅客自動車運送事業の遂行に必要な法令等
4.出題数および試験時間
40問以内とされており、管轄の運輸局によって出題数が異なります。
管轄の運輸局 | 出題数(試験時間) |
---|---|
北海道運輸局 | 30問(50分) |
東北運輸局 | 40問(60分) |
北陸信越運輸局 | 30問(45分) |
関東運輸局 | 40問(60分) |
中部運輸局 | 30問(45分) |
近畿運輸局 | 30問(40分) |
中国運輸局 | 40問(60分) ※過去50分の場合も有 |
四国運輸局 | 40問(60分) |
九州運輸局 | 40問(60分) |
※出題数や試験時間については管轄運輸局長の定めによります。そのため、開催月によっては上記内容より変更となる場合があります。
5.会場
管轄の地方運輸局で行われます。
※新型コロナウィルスの影響により支局での実施となる場合もありますので、事前にご確認ください。
6.合格率
管轄の運輸局によって出題傾向が異なり、合格率にばらつきがあります。
【関東運輸局】
平成30年5月:48.1%
令和元年5月:54.5%
令和3年5月:74.5%
【近畿運輸局】
平成30年5月:55.2%
令和元年5月:70.4%
令和3年5月:75.0%
※上記は弊社問い合わせよる運輸局からの回答「一般貨物自動車運送事業の役員法令試験と同等の結果である」をもとに掲載したものです。正式な合格率および合格者数は公表されておりませんので、あくまでも参考としてご活用ください。
7.勉強時間の目安
個人差がありますが、30時間から50時間の学習が必要となります。
法令試験の出題範囲
道路運送法関係の出題範囲
①道路運送法
道路運送法に基づく言葉の定義や条文の解釈などが出題されます。
たとえば、道路運送法第3条の「一般貸切旅客自動車運送事業」の言葉の意味については頻出問題です。言葉の定義や意味などに関する出題が多いため、しっかりと理解しておく必要があります。
②道路運送法施行令
主に整備や整備管理者に関する問題が出題されます。整備管理者の業務や整備規則について理解しておく必要があります。
③道路運送法施行規則
乗務員の休憩、仮眠などの道路運送法に基づく実際の施行規則について出題されます。さらに、統括運行管理者や運行管理に関する内容が出題傾向にあります。
過去には「事業用自動車の乗務員の休憩、仮眠又は睡眠のための施設を変更した場合、遅滞なく、届出しなければならない。」についての○×問題が出題されました。(答えは〇)
④旅客自動車運送事業運輸規則
旅客自動車運送事業を行う上で必要なルールについて出題されます。たとえば、従業員を試用期間を定めて雇用する場合や各言葉の定義について出題されます。
⑤旅客自動車運送事業等報告規則
事業報告書の運用規則に関して出題されます。特に事業報告書の提出期間や時期について出題される傾向にあります。
過去には「全ての旅客自動車運送事業者は前年四月一日から三月三十一日までの期間に係る事業報告書を提出しなければならない。」についての○×問題が出題されました。(答えは×)
⑥自動車事故報告規則
自動車事故の報告に関する問題が出題されます。事故発生時に国土交通省に報告しなければならない事項について出題される傾向にあります。
⑦一般貸切旅客自動車運送事業標準運送約款
運送申込書の提出や運送契約および乗車券に関する内容が出題されます。この項目では幅広い知識が必要となります。中でも乗車券や運賃に関する内容が出題傾向にあります。
道路運送法関係の出題範囲
①道路運送車両法
道路運送車両法に基づいた内容が出題されます。車検証や検査標章に関する内容、整備管理者の選任に関する内容などが出題されます。
過去には穴埋め問題として、「大型自動車使用者等は、整備管理者を選任したときは、その日から( )以内に、地方運輸局長にその旨を届け出なければならない。これを変更したときも同様である。」が出題されました。(答えは十五日)
②道路運送車両法施行令
保安基準適合証の記載事項についての内容が出題されます。また、道路運送車両法で定められている言葉の定義についての内容も出題傾向にあります。
③道路運送車両法施行規則
整備管理者による点検の実施内容や運行の可否基準などについて出題されます。
④道路運送車両の保安基準
道路運送車両法で定められている保安基準の細かい内容について出題されます。
一般旅客自動車運送事業の遂行に必要な法令の出題範囲
①運送事業者における安全管理の進め方に関するガイドライン
運送事業者の安全管理体制や内部監査、安全管理に関する文章の作成方法や記録方法に関して幅広く出題されます。
②旅客自動車運送事業運輸規則第47条の7第1項の規定に基づき、旅客自動車運送事業者が公表すべき運送の安全に係る事項(国土交通省告示第1089号)
国土交通省告示第1089号の内容が穴埋め問題として出題される傾向にあります。
③自動車運転者の労働時間等の改善のための基準
アルコールチェックや運転者の1日の流れなどについて出題されます。また、拘束時間や休憩時間の定めについても出題されることが多いです。
④輸送の安全を確保するための貸切バス選定・利用ガイドライン
旅行業者や学校関係者が貸切バスを選定および利用するにあたってのガイドラインが作成され、そのガイドラインから行程検討の留意点や契約の留意点について出題されます。
⑤その他一般旅客自動車運送事業の遂行に必要な法令等
道路交通法や道路運送車両法から一般旅客自動車運送事業を運営する上で必要な法令知識について出題されます。言葉の定義はもちろん、運転者の労働時間や整備管理者の選任など幅広く出題されます。
法令試験の効率的な勉強方法
貸切バス新規許可の法令試験の出題数は管轄運輸局によって異なります。基本的に30問~40問となりますが、試験問題のうち90%以上に答えられなければ不合格となってしまいます。出題範囲が広く、覚えなければならないことが多いのが特徴です。
特に各法令や施行令、ガイドラインなどについては言葉の表現が難しい箇所も多々あります。もちろん、すべてを覚えるのは現実的ではありません。
そのため、過去問題を解いて出題傾向を探ることがポイントです。管轄の運輸局の出題傾向を把握して重点的に学習することが大切です。
まとめ
貸切バス事業の新規許可を受けるには事業者の代表者が法令試験に合格する必要があります。出題範囲が広く、合格には90%以上の正答率が必要なため、ハードルが高い試験だと言えます。試験日までに過去問を解き、過去の出題傾向を探ることが合格への近道となります。